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2026年5月28日

なぜ『かんたん』というブランド名なのか ── 社名・サービス名に込めた条件

社名にもサービス名にも込めた「かんたん」は、訴求のための言葉ではなく、私たち自身を縛る拘束条件です。創業ステートメントで掲げた『誰にとっても、かんたん』を実際のサービスに落とすと、操作・導入運用・引き継ぎ・誰も取り残さない、という4つの層になりました。共同代表ふたりで、その中身を書きます。

著者: 呑名 健造・庄 卓児

私たちの会社の名前は「かんたん連絡網合同会社」、サービスの名前は「かんたん自治会DX」です。どちらにも「かんたん」という言葉が入っています。

なぜ「かんたん」なのか。その大きな理由は、創業の経緯を書いた記事 でお話ししました。インターネットを、火や電気のように誰もが当たり前に使える「公共の灯(ともしび)」にしたい。そのためには、デジタルが 誰にとっても「かんたん」 でなければならない ── これが、社名に込めた思いです。

ただ、この記事はその続きです。

「誰にとっても、かんたん」という一行を掲げるのは、実はそれほど難しくありません。難しいのは、その一行を 実際に作って、運用しつづける ことのほうです。私たちが日々サービスを育てるなかで、「かんたん」という言葉は、漠然とした理想ではなく、4つのはっきりした層に分かれていきました。

本記事は、看板に掲げた「かんたん」が、現場でどんな拘束条件として働いているのかを、共同代表ふたりで書いたものです。

1. 「かんたん」は、訴求の言葉ではなく、自分たちを縛る条件

先にひとつ、お伝えしておきたいことがあります。

私たちにとって「かんたん」は、お客様に向けた宣伝文句ではありません。自分たち自身が、判断に迷ったときに立ち返る基準 です。

サービスを作っていると、判断に迷う場面が無数に出てきます。この機能を足すべきか。この画面に説明を一行増やすべきか。この登録手順を一段省けないか。そのたびに私たちは「それは、誰にとっても、かんたんになるのか」と問い直します。答えが「一部の慣れた人にとっては」だったら、その案は採りません。

会社名とサービス名に同じ言葉を置いたのは、この問いをいつでも目の前に置いておくためです。名前は、飾りではなく、私たちの北極星です。

ちなみに、この名前は、ふたりで事業について話しているなかで、自然に決まりました。他の候補と比べて選んだというより、「これしかない」と二人とも感じた、という方が近いです。対案を立てる必要すらありませんでした。

そして、この大前提を実際のサービスに落とし込んでいくと、「かんたん」は次の4つの層になりました。

2. 自治会DXサービスとしての「かんたん」は、4つの層になった

私たちが向き合う「かんたん」は、アプリの画面のなかだけの話ではありませんでした。

(L1) アプリの操作が、かんたん

いちばん分かりやすいのが、この層です。ボタンを指で押し誤らない大きさにする。文字をはっきり読めるサイズに保つ。1つの画面で1つの操作しか求めない。

なぜここまでこだわるのかは、「10mの坂」の記事 で詳しく書きました。小さなボタンを一度押し誤った経験は、「自分にはこのアプリは無理だ」という、撤回されにくい判断につながってしまうからです。

(L2) 導入と運用が、かんたん

ところが、アプリの操作だけ簡単でも、自治会には届きません。

そもそもアプリを導入すると決める。理事会で説明する。住民の方に案内する。日々の回覧やお知らせを実際に発信していく。この一連のプロセスが重ければ、現場の役員さんの負担は減らず、むしろ増えてしまいます。「導入する側にとっても、かんたん」でなければならない ── これが2つめの層です。

(L3) 引き継ぎが、かんたん

自治会は、毎年のように役員が交代します。前の人がどう運用していたかが分からなければ、新しい役員はゼロから手探りを始めることになります。

役員引き継ぎの記事 でも書いたように、引き継ぎの負担は、なり手不足の大きな原因の一つです。だからこそ、「次の人が引き継ぐときも、かんたん」であることを、設計の条件に入れています。

(L4) 誰にとっても、かんたん

そして、いちばん上にあるのが、この層です。

これは、社名に込めた「誰にとっても、かんたん」そのものです。L1からL3までの3つは、言ってみれば、この一番上の層を 具体的な場面に分解したもの でしかありません。

なぜこの入れ子構造が大事かというと、L1だけを満たしても、それは「使いやすいアプリ」で止まってしまうからです。L4まで貫いて初めて、それは私たちが目指す 「公共の灯」 ── 誰もが当たり前に使える地域のインフラ ── の条件になります。

3. 「かんたん」は、作って終わりではなかった

ここからは、この4つの層を、私たちがどう守ってきたかの話です。

正直に言うと、「かんたん」は、一度作れば完成するものではありませんでした。試して、つまずきを見つけて、直す。それを何度も繰り返して、ようやく少しずつ近づいていくものでした。

登録の入口を、何度も試していただいた

私たちが特にこだわってきたのが、いちばん最初の関門である「登録」です。

私たちが伴走している自治会では、ご年配の方を中心に、何人もの方に、実際に登録を試していただきました。そのたびに、思ってもみなかった場所でつまずきが見つかります。ある手順で手が止まる。ある言葉が伝わらない。そのひとつひとつを、原因まで遡って直してきました。

たとえば、アプリストアからのインストールという最初の壁をなくすために、ブラウザからそのまま使える形にしました。入力の手間を減らすために、スマートフォンで案内の紙を読み取れば、何も打ち込まずに登録できるようにしました。さらに、手順が頭に入りきらない方のために、一枚の紙に一つの手順だけを載せる形に作り替えました。

どれも、机の上で考えただけでは出てこなかった工夫です。目の前の方が手を止めた瞬間を見て、初めて気づけたものばかりです。

機能が増えても、操作のかんたんさは手放さない

もうひとつ、私たちが規律として守っていることがあります。

サービスには、回覧板のデジタル化、安否確認、地域をめぐるスタンプラリーなど、機能が少しずつ増えてきました。一般に、機能が増えるほど、画面は複雑になり、操作のかんたんさは失われていきます。これは、多くのアプリが避けられずに通る道です。

私たちは、ここを偶然に任せていません。シニアの方が無理なく使えるための設計ルールを、自分たちの手で明文化しています。そして、開発の締切が迫っても、そのルールを手放さないことを、チームの決めごとにしています。

設計のルール自体は、突き詰めれば、世の中に公開されている知見の積み重ねです。本当に効いているのは、ルールの中身よりも、「忙しくても、それを守りつづける」という規律のほう だと考えています。

4. 「誰にとっても」の、いちばん難しいところ

ここまで読むと、「かんたん」を順調に積み上げてきたように見えるかもしれません。けれども、正直に書いておきたいことがあります。

どれだけ登録を簡単にしても、最後まで届かない壁が残ります。

たとえば、ご本人のスマートフォンの設定が特定の状態になっていると、こちらの作り込みだけではどうにもならず、登録の途中で止まってしまうことがあります。私たちの設計の外側にある領域です。「誰にとっても、かんたん」という言葉のいちばん難しいところは、まさにこの「最後のひとり」にあります。

だからこそ、私たちは急ぎません。

先行してデジタル化を進めている地域を見ていると、便利な機能を足して利用者を一気に増やしていく動きもあります。私たちにも、同じことはできます。けれども、急いで広げた結果、つまずいた方が一度「やっぱり自分には無理だった」と感じてしまえば、その記憶は簡単には撤回されません。次にどんなに良いものを出しても、その方の手はもう動かなくなってしまう。

だから私たちは、一度に広げず、つまずいた方に、一人ずつ伴走することを選んでいます。「急がば回れ」という慎重なリズムそのものが、住民の方にとっての「かんたん」を守るための、私たちの判断です。ゆっくり進むことも、「誰にとっても、かんたん」を実現するための、れっきとした手段の一つだと考えています。

5. 「公共の灯」と「かんたん」 ── なぜ、と、どう

最後に、二つの言葉の関係を整理しておきます。

私たちのブランドには、二本の柱があります。一つは 「公共の灯」。もう一つが「かんたん」です。

「公共の灯」は、なぜやるのか を表しています。デジタルを、火や電気と同じ、誰もが当たり前に使える公共のインフラにする。これが、私たちの目指す方向です。

そして「かんたん」は、どうやるのか を表しています。操作も、導入も、運用も、引き継ぎも、そして誰にとっても ── すべての層で「かんたん」であること。それが、方向に近づくための、唯一の道だと考えています。

社名とサービス名に「かんたん」を置いたのは、私たち自身を縛るためでした。忙しくても、機能が増えても、急ぎたくなっても、いつでも「誰にとっても、かんたんか」に立ち返るために。

創業のステートメントの最後を、もう一度ここに置きます。

誰にとっても『かんたん』であること。

それこそが、テクノロジーが本当の意味で社会を豊かにするための、唯一の条件だと信じています。

この一行を、看板にしただけで終わらせない。それが、私たちが「かんたん」という名前に背負わせた、いちばんの責任です。

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