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2026年5月22日

空き家を見つけたあと、自治会に何ができるのか ── 年に一度の巡回が、本当に問われていること

自治会では地区理事が年に一度ほど地区を歩き、空き家を確認しています。けれど空き家チェックの本当の難しさは「数える」ことの外側、見つける前と見つけたあとにあります。空き家の約6割は持ち主の死亡が原因という公的調査をもとに、自治会に何ができるのかを現場から整理しました。

著者: 呑名 健造

年に一度、あるいは二度。地区理事が、自分の担当する地区を歩いて回ります。

特別な道具は持ちません。手にしているのは、地区の地図です。雨戸が閉まったままの家、郵便受けにチラシが溜まっている家、庭の草が伸びきった家。そうした様子を見て「ここは空き家のようだ」と見当をつけ、地図に印をつけていく。歩き終えたら、その地図を持って理事会に出て、口頭で報告する。これが、私たちが伴走している一つの自治会で行われている、空き家チェックの実際です。

この巡回そのものは、きちんと回っています。印をつけた地図は、次の年の理事にも引き継がれます。紙だから記録が消えてしまう、ということはありません。

それでも、空き家チェックという仕事を近くで見ていると、本当の難しさは「数える」ことそのものではなく、その前と後ろにあることが見えてきます。空き家を見つける手前と、見つけたその先。問われているのは、そこです。

私たちかんたん連絡網合同会社は、自治会向けのデジタル化サービス「かんたん自治会DX」を開発・運営しています。空き家の管理を助ける機能も持っています。だからこそ「アプリにすれば解決する」と急いで言う前に、紙の巡回が何をできていて、何ができていないのかを、正確に見ておきたいと思います。

空き家は、もう「特別な家」ではない

まず、空き家がどれくらいあるのかを確かめておきます。

総務省の令和5年住宅・土地統計調査によれば、全国の空き家は約900万戸。住宅全体に占める割合は13.8%で、過去最高となりました。空き家の数は、この30年でほぼ2倍です。おおよそ7戸に1戸が空き家、という時代に入っています。

空き家は、もうどこか遠くの、特別な家の話ではありません。どの自治会の、どの地区にも、いくつかはある。自分たちの地区の問題として考えるべき数字です。

そのうえで、空き家とは何かを、もう少し具体的に見ておきます。

国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査によれば、空き家の取得方法の約6割が「相続」でした。そして相続によって生じた空き家のうち、約6割は、所有者の「死亡」をきっかけに空き家になっています。

数字を並べると冷たく聞こえるかもしれません。けれど、ここには大事なことが含まれています。空き家の多くは、そこに住んでいた人が亡くなったあとに残された家だ、ということです。

空き家チェックで地区理事が見ているのは、ただの「空いている建物」ではありません。少し前まで、誰かの暮らしがあった場所です。このことには、最後にもう一度立ち返ります。

なぜ自治会が、空き家を見回るのか

空き家は、誰かの所有物です。自治会のものではありません。それなのに、なぜ自治会が、わざわざ歩いて見回るのでしょうか。

理由は、はっきりしています。空き家は個人の持ち物でも、その影響は地域全体に及ぶからです。所有しているのは一人でも、すぐ隣で暮らしているのは、地域の人たちです。

放っておかれた空き家には、いくつものことが起こります。

ひとつは、建物の傷みです。先ほどの国土交通省の調査では、相続によって生じた空き家の7割超に、すでに何らかの腐朽や破損があるという結果が出ています。傷んだ家は、強い風や地震のときに、瓦が飛んだり、塀が崩れたりする心配があります。火が出れば、隣に燃え移る。空き家の防災上のリスクは、その家の中だけでは収まりません。

もうひとつは、生き物です。私たちが伴走している自治会でも、しばらく人の手が入らない家に、アライグマやハクビシンといった動物が住み着いてしまう、ということが起きています。一度住み着くと、その影響は近隣にも広がっていきます。

不審者の問題も、報道などでよく知られているとおりです。人の出入りのない家は、よからぬ目的に使われることがあります。

そして、災害のときです。どこが空き家かを地域が把握できていれば、いざというときの安否確認で、空き家を無駄に回らずに済みます。逆に、空き家だと思っていた家に実は人が住んでいた、ということも起こり得ます。空き家の把握は、人の安否の把握と、背中合わせなのです。

だから自治会は、誰に頼まれるでもなく、空き家を見回ります。それは、地域が地域自身を守るための、地道な仕事です。

「見つける」のは、思うほど簡単ではない

ここから、空き家チェックの本当の難しさに入っていきます。まずは「見つける」側です。

地区理事が地区を歩いて空き家を確認する。一見、単純な作業に思えます。けれど近くで見ると、いくつかの弱さがあります。

ひとつは、「何をもって空き家とするか」が、決まっていないことです。

雨戸が閉まっている。郵便受けが溢れている。電気のメーターが止まっている。庭が荒れている。どれも空き家らしい兆候ですが、決まったチェック項目があるわけではありません。最終的には、歩いている理事の判断に委ねられます。理事は毎年のように代わり、人によって着眼点も違う。同じ家を見ても、ある年は「空き家」、別の年は「長期の留守」と、判断が分かれることが起こり得ます。

判断が難しいのには、理由があります。「空き家」と「長期の不在」は、外から見ただけでは区別がつかないからです。入院しているのかもしれない。施設に入っているのかもしれない。ただ、別の家で暮らしているだけかもしれない。本当に区別をつけようとすれば、持ち主に連絡を取るしかありません。歩いて外から眺めるだけでは、そこまでは分からないのです。

もうひとつの弱さは、頻度です。

巡回は、年に一度か二度。裏を返せば、その間の数か月は、誰も意識して見ていない時間だということです。郵便受けが溢れはじめた。庭に動物が出入りしはじめた。そうした変化は、たいてい年に一度の巡回より早く始まります。

そして、ここが肝心です。その変化に最初に気づくのは、たいてい巡回する理事ではなく、隣に住んでいる人です。毎日その家の前を通り、いつもと違う様子に、まっさきに気づく。けれど今は、その「気づき」を自治会に伝える、決まった道がありません。わざわざ理事の家を訪ねるほどのことでもない。そう思っているうちに、気づきは伝わらないまま流れていきます。

つまり「見つける」側の弱さは、巡回の精度というより、巡回する人以外の目を、活かせていないところにあります。

本当の課題は、「見つけたあと」にある

「見つける」側に弱さがあるとして、では、見つけたあとはどうでしょうか。

正直に言えば、ここがいちばんの課題です。

地図に印をつけ、理事会で報告する。そこまでは行われます。けれど「この家は空き家だ」と分かったあと、自治会として具体的に何かができているかというと、実際のところ、ほとんど何もできていません。把握はする。でも、その先がない。巡回は「見る」で終わり、「どうする」につながっていないのです。

それでも、いざ何かが起きたときには、動かざるを得ません。そして、そのときに効くものは、地図の印ではありませんでした。

私たちが伴走している自治会で、ある冬、こんなことがありました。

一軒の空き家で、水道管が破裂したのです。寒さで管が割れ、水が敷地から道路まで流れ出していました。空き家ですから、中に人はいません。止めようにも、家のどこに元栓があるのかも分かりません。

このとき自治会を救ったのは、その空き家の持ち主の連絡先を、把握できていたことでした。すぐに持ち主へ連絡を取り、元栓の場所を教わって、水を止めることができたのです。

もし連絡先が分からなければ、どうなっていたでしょうか。水は流れ続け、誰も止められないまま、被害は広がっていったはずです。

この一件が教えてくれるのは、空き家チェックで本当に大切なのは「どこが空き家か」を地図に記すことだけではない、ということです。それと同じか、それ以上に、「その家の持ち主が誰で、どうすれば連絡が取れるか」を地域が握っていられるか。いざというときに動けるかどうかは、ここで決まります。

ところが、これがなかなか難しい。先ほど、空き家の約6割が相続によるもので、その多くは持ち主の死亡をきっかけにしている、と書きました。持ち主が亡くなり、家が相続されるということは、連絡を取るべき相手が代わるということです。代替わりのたびに、自治会がそれまで把握していた連絡先は、古くなっていきます。相続した人が遠くに住んでいれば、つながりはさらに細くなる。

水道管の例で連絡が取れたのは、幸運だったとも言えます。所有者が分からない空き家、連絡のつかない空き家は、現実には少なくありません。見つけても、打てる手がほとんどない。それが「見つけたあと」の、いちばん重い現実です。

デジタルにできること、できないこと

ここまで見てきた弱さに、デジタルは何かできるでしょうか。

先に、できないことから書きます。

デジタルは、空き家の持ち主を探し出してはくれません。傷んだ家を修理することも、伸びた草を刈ることもできません。所有者の分からない家の登記をたどるのも、必要なら行政や専門家につなぐのも、人の仕事であり、制度の仕事です。空き家問題のいちばん重い部分は、アプリで消えるものではありません。ここを正直にしておかないと、話を見誤ります。

そのうえで、デジタルにも、手伝えそうなことがあります。

ひとつは、「見つける」側の弱さです。巡回する人以外の目を活かせていない、という問題でした。年に一度の巡回を待たなくても、異変に気づいた住民が、その場で気軽に伝えられる。理事の家を訪ねるほどでもない小さな気づきを、受け取る道をつくる。デジタルが比較的得意なのは、こうした「気づきを集める」ところです。

もうひとつは、「見つけたあと」の弱さです。持ち主とのつながりが細っていく、という問題でした。空き家の記録を、ただの地図の印で終わらせず、持ち主の連絡先や、これまでの経緯と一緒に残していく。理事が代わっても、その情報が引き継がれていく。水道管の一件で効いたのは、まさにこの「連絡先を握れていたこと」でした。それを、たまたまではなく、仕組みとして残せるようにする。

私たちのサービスにも、空き家を含めた世帯の状況を記録し、巡回の結果を残していくための機能があります。ただ、正直に申し添えておくと、この機能は、まだ本格的な運用の手前にあります。実際の巡回で使われ、現場の声で直されていくのは、これからです。私たちは、それを「もう解決した」とは考えていません。

デジタルにできるのは、空き家問題を解決することではありません。役員のなり手が足りない地域で、地区理事が一人で抱えてきた「見る」仕事を、地域のみんなで少しずつ分け合えるようにすること。そして、人が代わっても、つながりと記録が切れないようにすること。できるのは、そこまでです。けれど、そこは確かに、手伝えるはずだと考えています。

まとめ ── 灯が消えた家にも、地域の目は届く

私たちは「インターネットを、火や電気と同じ公共の灯に」という考えを軸に、自治会向けのサービスをつくっています。

空き家は、その灯が一つ、消えた跡です。さきほど、空き家の多くは持ち主が亡くなったあとに残された家だ、と書きました。これは比喩ではなく、調査が示している事実です。空き家を見回るということは、誰かの暮らしがあった場所を、地域がそのあとも気にかけ続ける、ということにほかなりません。

家の窓に灯がともらなくなっても、その家と地域をつなぐ線まで、消してしまう必要はありません。持ち主とのつながりを細らせない。近所の目が、変わらず届き続ける。傷みや異変に、誰かが早く気づける。それも、地域に灯をともし続けることの、一つの形です。

空き家チェックは、空き家を「数える」仕事に見えて、そうではありません。本当に問われているのは、見つける前に、巡回する理事以外の目を活かせるか。そして見つけたあとに、持ち主とのつながりを保てるか。その二つです。

地区理事が一人で、年に一度地区を歩いて担ってきたこの仕事を、地域のみんなで、少しずつ分け合えるようにすること。気づいた人が、気づいたときに、難しい手順なく伝えられること。その伝え方が、誰にとってもかんたんであること。

灯が消えた家にも、地域の目は届く。その当たり前を、当たり前のまま続けられるように。私たちは、そう考えています。

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